説明

希少糖を含有する二糖およびその合成法

【課題】 構成単糖として希少糖を含む新規な二糖およびその合成方法の提供。
【解決手段】 分子量342.30であり、α-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシド。無機リン酸存在下スクロースを出発原料として、スクロースホスホリラーゼおよびD-タガトース3エピメラーゼとの共役反応によって合成した物質である。α-グルコース-1-リン酸および希少糖より選ばれるケトヘキソースにスクロースホスホリラーゼを作用させて、構成単糖として希少糖を含む二糖を合成する方法。希少糖より選ばれるケトヘキソースが、D-プシコース、D-タガトース、D-ソルボース、L-フラクトース、L-プシコース、L-タガトースおよびL-ソルボースよりなる群より選ばれる1以上のケトヘキソースである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成単糖として希少糖を含む新規な二糖およびその合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロースホスホリラーゼは、無機リン酸の存在下でスクロースに作用してα-グルコース-1-リン酸とD-フルクトースとを生成させる酵素である。逆にα-グルコース-1-リン酸とD-フルクトースからスクロースを合成することができる。またα-グルコース-1-リン酸とL-ソルボースからグルコシル-L-ソルボースがスクロースホスホリラーゼによって合成できることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
希少糖は、大量生産により、その様々な生理活性が明らかになりつつある(特許文献2,3、非特許文献2,3)。例えば、D-グルコースやD-フラクトースなどの単糖と比べて脂肪合成を促進せず、体脂肪、特に腹腔内脂肪を蓄積させない糖として、D-プシコースが注目されている(非特許文献2)。また、D-プシコースの有効エネルギー価はほぼゼロであることも報告されている。このように、希少糖は、大量生産により、その様々な生理活性が明らかになりつつある。
【0004】
しかし、これまでにα-グルコース−1−リン酸とD-プシコース、D-タガトース、D-ソルボース、L-タガトース、L-プシコース、またはL-フラクトースとでスクロースホスホリラーゼによる合成例は報告されていない。そもそもこれらの糖は入手が困難であるため研究対象とされていなかったことが原因であると思われる。
【0005】
【特許文献1】特開2002-345458号公報
【特許文献2】特開2004-269359号公報
【特許文献3】特開2004-300079号公報
【非特許文献1】Doudoroff, M. The Enzymes, 2nd. Ed. (Boyer, P.D.,Lardy, H., Myrbaeck, K., eds.) pp.229-236 1961
【非特許文献2】Matsuo T, et al., Asia Pacific J. Clin.Nutr. 10, 233-237, 2001
【非特許文献3】Matsuo T, et al., J. Nutr. Sci. Vitaminol 48, 77-80, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、構成単糖として希少糖を含む新規な二糖およびその合成方法を提供することを目的とする。様々な生理活性が明らかになりつつある希少糖を含有する新規な二糖(オリゴ糖)は新たな生理活性を有する可能性が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
スクロースはD-グルコースとD-フラクトースとが結合した二糖類であるが、その構成糖が異なる二糖類を合成することが可能となれば、新規な用途が期待される。しかし、その方法は容易な反応ではない。その理由は二糖が結合した状態で、D-グルコースあるいはD-フラクトースの構造を変化させることはできないからである。従って二糖類を構成糖である二つの単糖を何らかの反応によって結合する方法が最も可能性が高い。また二つの単糖を結合するためには、結合のエネルギーが必要であるため、何らかの方法でそれを反応系に与える必要がある。そこで、スクロースフォスフォリラーゼの逆反応を用いることでこれらの課題を解決できた。すなわち、エネルギーの供給としてはD-グルコース-1-燐酸を用いること、および新たな構成糖として各種の希少ケトースを用いることで、スクロースのD-フラクトースを希少ケトースに変換することが可能である。
【0008】
本発明は、以下の(1)および(2)のα-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシドを要旨とする。
(1)分子量342.30であり、下記の構造を有するα-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシド。
【化3】



(2)無機リン酸存在下スクロースを出発原料として、スクロースホスホリラーゼおよびD-タガトース3エピメラーゼとの共役反応によって合成した物質である請求項1のα-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシド。
【0009】
また、本発明は、以下の(3)〜(7)の構成単糖として希少糖を含む二糖を合成する方法を要旨とする。
(3)α-グルコース-1-リン酸および希少糖より選ばれるケトヘキソースにスクロースホスホリラーゼとして触媒する酵素を作用させて、構成単糖として希少糖を含む二糖を合成する方法。
(4)希少糖より選ばれるケトヘキソースが、D-プシコース、D-タガトース、D-ソルボース、L-フラクトース、L-プシコース、L-タガトースおよびL-ソルボースよりなる群より選ばれる1以上のケトヘキソースである上記(3)の二糖を合成する方法。
(5)希少糖より選ばれるケトヘキソースが、D-プシコースであり、構成単糖として希少糖を含む二糖が、分子量342.30であり、下記の構造を有するα-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシドである上記(4)の二糖を合成する方法。
【化4】



(6)前記スクロースホスホリラーゼ が、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)に属する細菌由来である、上記(3)、(4)または(5)の二糖を合成する方法。
(7)前記スクロースホスホリラーゼが、担体上に固定化されている、上記(6)の二糖を合成する方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いる酵素はスクロースホスホリラーゼである。スクロースホスホリラーゼ
は、グルコース-1-リン酸とD-フラクトースからスクロースを合成する酵素でありGlucose1→2Fructoseで結合する。D-グルコース、D-フラクトースはそれぞれ単独において水溶液中で4種類の形態を取るが、スクロース(Sucrose)になるとグルコースはα-グルコピラノシド、フラクトースはβ-フラクトフラノシドの状態で結合する。D-プシコースもまた4種類の形態を取るが、D-フラクトースの代わりにD-プシコースを使用し反応させた場合にも同様の結合様式であると推定される。
【0011】
スクロースホスホリラーゼは公知の酵素であり、スクロースと無機リン酸および/またはその塩からα−グルコース1−リン酸とフラクトースを生成する酵素であればいかなる起源の酵素でも用いることができる。スクロースホスホリラーゼは、自然界では種々の微生物に含まれる。スクロースホスホリラーゼを産生する微生物の例としては、Leuconostoc mesenteroidesStreptococcus thermophilusStreptococcus mutans,Streptococcus pneumoniae,Pseudomonas sp.,Clostridium sp.,Pullularia pullulansAcetobacter xylinumAgrobacteium sp.,Synecococcus sp.,E.coliAspergillus nigerMonilia sitophilaSclerotinea escerotiorumおよびChlamydomonas sp.が挙げられるがこれらに限定されない。
【0012】
本明細書中では、酵素がある微生物に「由来する」とは、その微生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その微生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その微生物の酵素遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその微生物に「由来する」という。
【0013】
本発明においては、市販品を用いる他、これら酵素を生産する微生物を培養して得たものを用いることもできる。具体的には、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、シュードモナス サッカロフィラ(Pseudomonas saccharophila )等の微生物によって生産されるスクロースホスホリラーゼ を用いることができる。前者のスクロースホスホリラーゼは、国際生化学連合酵素委員会報告によりEC 2.4.1.7に分類されている酵素であり、スクロースをリン酸の存在下に加リン酸分解し、グルコース-1-リン酸とフラクトースとを生じる可逆反応の触媒である。
【0014】
なお、本明細書中で使用した酵素はすべてロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来の酵素である。
本発明の方法で用いられるスクロースホスホリラーゼは、例えば、以下のようにして調製され得る。まず、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物を培養する。この微生物は、スクロースホスホリラーゼを直接生産する微生物であってもよい。また、スクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子をクローン化し、得られた遺伝子でスクロースホスホリラーゼ発現に有利な微生物を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物からスクロースホスホリラーゼを得てもよい。スクロースホスホリラーゼは、精製酵素、未精製酵素をそのまま用いてもよいが、公知の固定化手段、例えば担体結合法、架橋法、ゲル包括法、マイクロカプセル化法等を利用して固定化酵素としてもよい。また、生菌体をポリアクリルアミド、κ−カラギナン、アルギン酸、光架橋性樹脂プレポリマー等を利用する包括固定化法により固定化して生体触媒として用いることもできる。
【0015】
本発明に使用する市販のスクロースホスホリラーゼは、良好な比活性を有し、好ましい実施態様では、比活性が70単位/mg以上である。本明細書中では、必要に応じてスクロースホスホリラーゼの状態が失われない範囲で、スクロースホスホリラーゼ以外の酵素、溶媒、添加剤などを含んでもよい。
【0016】
本明細書中で「活性(U)」とは、1分間あたり1マイクロモル基質を転換する酵素活性をいう。市販されている酵素には通常活性がUで表示されているため、それを基に本明細書中の使用酵素量を表示する。
スクロースホスホリラーゼの使用量は特に制限されず、最適な酵素使用量は経済性を考慮して決定されるが、通常は溶液中に含まれるスクロースホスホリラーゼの濃度は、反応液量あたりに代表的には0.1U〜10U、より好ましくは0.5U〜8Uである。スクロースホスホリラーゼの量が多すぎたり少なすぎたりすると、充分量の二糖をえることができない場合がある。
【0017】
D−プシコースは、近年、エピメラーゼの出現(例えば、特開平6−125776号公報参照)により、たとえば自然界に豊富に存在する単糖であるD−フラクトースより生産できるようになるなど、依然高価ではあるが、比較的入手が容易となった。原料としてD−プシコースを用いることにより、原料コストの問題を解決し、D−フラクトースに基づく新たな生理活性を有することが期待できるヘテロオリゴ糖が得られることを見出した。
単糖類の中で、D−プシコースは、還元基としてケトン基を持つ六単糖である。このD−プシコースには光学異性体としてD体とL体とが有ることが知られている。ここで、D-プシコースは既知物質であるが自然界に希にしか存在しないので、国際希少糖学会の定義によれば「希少糖」と定義されている。
【0018】
希少糖について説明すると、希少糖とは自然界に希にしか存在しない単糖(アルドース、ケトースおよび糖アルコール)と定義づけることができる。本発明においても上記の定義に基づく希少糖であり、好ましくはケトースのD-プシコースである。
この定義は糖の構造や性質による定義ではないため、あいまいである。すなわち、一定量以下の存在量を希少糖というなどの量の定義はなされていないためである。しかし、一般に自然界に多量に存在するアルドースとしてはD-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-キシロース、L-アラビノースの6種類あり、それ以外のアルドースは希少糖と定義される。ケトースとしては、D-フラクトースが存在しており、他のケトースは希少糖といえる。他のケトースとして、D-タガトース、D-ソルボース、L-フラクトース、L-プシコース、L-タガトース、L-ソルボースが挙げられる。
また糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD−ソルビトールが比較的多いがそれ以外のものは量的には少ないので、これらも希少糖といえる。
【0019】
本発明で原料として使用する希少糖は、これまで入手自体が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。
【0020】
本発明の酵素反応において、反応系にグルコース-1-リン酸を存在させる。反応液中のグルコース-1-リン酸の濃度は特に限定されるものではないが、0.001mM以上1M以下、好ましくは0.01mM以上500mM以下、より好ましくは0.1mM以上200mM以下である。
【0021】
<反応基質>
本発明の方法で使用されるα-グルコース-1-リン酸および希少糖であるケトヘキソースは、純粋なものであることが好ましい。
反応溶液中に含まれるα-グルコース-1-リン酸の濃度は、代表的には1〜20%、より好ましくは5〜10%である。なお、本明細書中での濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、(α-グルコース-1-リン酸の重量(g))×100/(溶液の容量(ml))で計算する。
反応溶液中に含まれる様々な希少糖であるケトヘキソースの濃度は、代表的には1〜20%、より好ましくは5〜10%である。なお、本明細書中での濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、(希少糖であるケトヘキソースの重量(g))×100/(溶液の容量(ml))で計算する。
【0022】
後述の実施例2に示すように、グルコース-1-リン酸が高価であるため、スクロースを出発原料としてスクロースホスホリラーゼおよびD-タガトース3エピメラーゼとの共役反応によるグルコシル-D-プシコースの合成可能性について検討した。
D-タガトース3-エピメラーゼは、D−ケトヘキソースの3位をエピマー化し、対応するD−ケトヘキソースを生成する活性を有するD−ケトヘキソース3-エピメラーゼであり、次の理化学的性質を有する(特開平6−125776号公報参照)。
(1)作用および基質特異性D−ケトヘキソースの3位をエピマー化し、対応するD−ケトヘキソースを生成する。D−またはL−ケトペントースの3位をエピマー化し、対応するD−またはL−ケトペントースを生成する。
(2)至適pHおよびpH安定性pH7乃至10に至適pHを有し、pH5乃至10で安定。
(3)至適温度および熱安定性60℃付近に至適温度を有し、50℃以下で安定。
(4)紫外線吸収スペクトル275乃至280nmに吸収帯を示す。
シュードモナス・チコリ ST−24(FERM BP−2736)およびその変異種などのシュードモナス属に属するD−ケトヘキソース・3−エピメラーゼ産生能を有する細菌を、栄養培地で培養してD−ケトヘキソース3-エピメラーゼを生成せしめ、これを採取することにより製造される。
【0023】
<溶媒>
スクロースホスホリラーゼおよび基質である糖質を溶解する溶媒は、スクロースホスホリラーゼの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。代表的な溶媒としては、水が挙げられる。溶媒は、酵素活性を維持するためにpH緩衝液、例えばトリス−塩酸緩衝液, リン酸緩衝液, 3-(N‐モノホリノ) プロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液等の水溶液を用いることが望ましい。そのpHの範囲は代表的には4〜11であり、より好ましくは6〜8である。
【0024】
反応時間についても特に限定されないが、目的とするヘテロオリゴ糖の収率等が最大になったところで終了すればよく、通常は1分〜数百時間の範囲で原料となるスクロース等の濃度及び酵素濃度を考慮して適宜決定すればよい。酵素反応終了後、必要に応じてヘテロオリゴ糖を既知の方法により分離することができる。上記した方法では、反応液中に酵素が含まれるため、通常は初めに反応液を加熱して酵素を失活させ、その後適宜の分離手段によりヘテロオリゴ糖を分離する。この際、反応液中に残存しているスクロース等が分離に障害になるならば、あらかじめ適宜の分解酵素を用いて分解する。例えば、反応液にインベルターゼを加えることにより、未反応のスクロースを分解する。その後、所望により、ゲル濾過クロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー等の精製手段を適用することによりヘテロオリゴ糖を精製することができる。
【0025】
本発明においては、原料として用いる希少糖に対応して特定のヘテロオリゴ糖が製造される。希少糖として、例えばD-プシコースを用いた場合には、α-D-グルコース-(1→2)β-D-プシコース(グルコシル-D-プシコース)製造される。
【0026】
本発明の合成方法で得られる構成単糖として希少糖を含む二糖について説明する。
スクロースとグルコシル-D-プシコースとの構造の違いは、炭素2位(○で示した)においてHとOHの向きが逆になっていることである。
1.構造
一般名:Sucrose (スクロース)
正式名:α-D-glucopyranosyl-(1→2)-β-D-fructofuranoside
(α-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-フラクトフラノシド)
【化5】



一般名:Glucosyl-D-psicose グルコシル-D-プシコース
正式名:α-D-glucopyranosyl-(1→2)-β-D-psicofuranoside
(α-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシド)
【化6】



【0027】
上記化5に示すスクロースの炭素の番号は下記化7に示すとおりであり、左がD-グルコースであり右がD-フラクトースである。スクロースはD-グルコースの1位とD-フラクトースの2位が結合しているため還元性を有していない。α−グルコースが還元性を示すのは,開環構造のときに1位の炭素がアルデヒド基になる必要があり,またβ−フルクトースが還元性を示すのは,開環構造のときに2番炭素のケト基がヒドロキシル基に変わり,1位の炭素のヒドロキシル基がケト基になって,1位の炭素がアルデヒド基になることが必要となる。しかしながら,スクロース分子では,還元性を示すために必要なα−グルコースの1位の炭素と,β−フルクトースの2位の炭素が酸素原子を挟んでグリコシド結合しているため,開環構造をとれない。そのために還元性を示さない。
【化7】

【0028】
2.性質
グルコシル-D-プシコースとスクロースの化学式は、ともにC12H22O11であり、分子量はともに342.30である。スクロースがソモジーネルソン法にて還元力を示さないように(0.01%(g/w)で0.0153)、グルコシル-D-プシコースもほとんど還元力を示さないことが明らかであることから(同0.0485)、グルコシル-D-プシコースはスクロースと同様の結合様式、すなわちα-グルコピラノシドの1位とβ-プシコフラノシドの2位とでグリコシド結合しているものと強く推測される。
【0029】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
1)酵素反応条件
市販されているスクロースホスホリラーゼ(オリエンタル酵母社製)を用いて表1に示した反応組成で合計8種を合成した。8種のうち1種はコントロールとしてD-フラクトースを使用した(合成されるとスクロースが生じる)。他の7種との合成効率を比較した。
【0031】
【表1】



【0032】
生じた二糖の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析による各基質から生じる二糖の割合およびリテンション タイムを表2に示す。
【0033】
【表2】



【0034】
なお、カラムとしてHitachi HPLC カラム GL-C611(日立化成工業社製)を用い、検出器としては示差屈折計(L-7490 refractive index detector、日立ハイテク社製)を用いた。カラムを60℃に保ち、溶離液としては10-4 M 水酸化ナトリウム溶液を流速1.0mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(SmartChrom、KYAテクノロジーズ社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析した。
【0035】
これまでに申請者たちが得ている結果によると上記装置、および条件化では、グルコース、プシコースをはじめとする単糖は15分以降から30分程度でほぼ全種類が溶出され、またスクロース、ラクトースをはじめとする二糖は13分から15分までに溶出される。本明細書に記載している合成二糖のうちD-フラクトース(この場合はスクロースである)以外のケトヘキソースを基質にした際のHPLCのデータは存在していないが、表2で示したようにリテンション タイムから二糖が生産されていると考えてよい結果である。
【0036】
また生じる二糖は、D-フラクトースからはグルコシル-D-フラクトース(スクロース)、以下表2の上から順に、グルコシル-D-プシコース、グルコシル-D-タガトース、グルコシル-D-ソルボース、グルコシル-L-フラクトース、グルコシル-L-プシコース、グルコシル-L-タガトース、グルコシル-L-ソルボースとなる。ただし、D-タガトース、L-タガトース、L-プシコースに見られるマイナーピークは、わずかに結合様式の異なる二糖である可能性が高いと思われる。さらにL-タガトースを用いた場合に見られる17.7分のピークは通常単糖が溶出される位置に相当するが、これまでに全てについて単離し構造を解析するまでには至っていない。
【0037】
図1に、D-フラクトースまたは、D-プシコースを基質に用いた際に生じた二糖をHPLCで分析した結果を示す。
【0038】
2)分離条件
表2で得られた8種の二糖のうちD-プシコースと合成したグルコシル-D-プシコースを精製しさらにその性質を調べた。スクロースホスホリラーゼは平衡反応を触媒するために反応後の溶液中には、産物である基質であるグルコシル-D-プシコースおよび基質であるα-グルコース−1−リン酸、D-グルコース、D-プシコースが含まれている。グルコシル-D-プシコースを精製するためにまず酵素反応後の反応液を加熱によって酵素を失活させることが必要である。加熱時間は、代表的には1分間〜10分間、より好ましくは3分間〜5分間である。加熱は、どのような手段を用いて行ってもよいが、溶液全体に均質に熱が伝わるように、撹拌を行いながら加熱することが好ましい。溶液は、例えば、ビーカーの中に入れられて撹拌される。加熱に用いられる装置としては、ウォーターバスが挙げられる。
【0039】
得られたグルコシル-D-プシコースをDowex 50W-X2(Dowex社製)樹脂を用いて分離精製した。この分離分取用の樹脂は、上述したHPLC用カラムGL-C611と同じ分離溶出パターンとなっている。糖濃度10%、2mlの反応溶液をΦ0.8cm×120cmのカラムで流速0.5ml/minの条件で分離した。分離可能なサンプル量は、糖濃度5%〜20%で1〜3ml、より好ましくは10%で2mlである。フラクションコレクターの設定は、1.5ml/本で120画分回収した。図2に精製後のグルコシル-D-プシコースのHPLCのチャートを示した。HPLCではカラムを60度で加熱するためグルコシル-D-プシコースは若干熱分解を受けているように思われる。なお、この結果における純度は95%である(表3:精製したグルコシル-D-プシコースの純度)。
【0040】
【表3】



【実施例2】
【0041】
(スクロースホスホリラーゼおよびD-タガトース3エピメラーゼとの共役応によるグルコシル-D-プシコースの合成)
グルコース-1-リン酸が高価であるため、無機リン酸存在下スクロースを出発原料としてスクロースホスホリラーゼおよびD-タガトース3-エピメラーゼとの共役反応によってグルコシル-D-プシコースが合成可能性について検討した。この原理はスルロースフォスフォリラーゼでスクロースはD-グルコース1−燐酸とD-フラクトースへ分解される。そのD-フラクトースはD-タガトース3-エピメラーゼによってD-プシコースへと変換される。この反応で生産されるD-グルコース1-燐酸とD-プシコースが基質として反応が進行する。これによりD-グルコース1-燐酸を基質として添加する必要はない。各酵素、基質、緩衝液の反応組成を表4に示す。なお、無機リン酸は酵素製剤などの添加物により系に導入される。
【0042】
【表4】



【0043】
[結果]
HPLCの結果を図3に示す。14.40分がグルコシル-D-プシコースであり、10%程度合成することに成功した。
【0044】
(グルコシル-D-プシコースの性質)
精製したグルコシル-D-プシコースについての性質を調べた。
1.比施光度
グルコシル-D-プシコースおよびコントロールとしてスクロースの比施光度を測定した。測定には、日本分光社製の施光計P-1030STを使用し、20
℃、波長589nmにおける比施光度を測定した。
グルコシル-D-プシコース: [α]20= 74.36
スクロース: [α]20= 66.78
【0045】
2.還元力の定量
グルコシル-D-プシコースおよびコントロールとしてスクロースの還元糖量をソモジーネルソン法にて定量した。なお、0.01%(g/w)で測定した。
グルコシル-D-プシコース: 0.0485
スクロース: 0.0153
注)このときのグルコシル-D-プシコースにはD-グルコースがHPLC上では0.3%程度混在していたために還元糖が若干検出されたが、グルコシル-D-プシコース自体には還元力はないものと判断される。なお、グルコシル-D-プシコースの値0.0485は、D-グルコースの還元力から単純に計算すると約0.0002%のグルコースが存在することとなる。これらを総合してグルコシル-D-プシコースは還元力を持たないという結果である。すなわち結合様式がD-グルコースの1位とD-プシコースの2位とが結合していることを示している。
【0046】
3.13C-NMR
スクロースの結合様式は、α1グルコース(ピラノース環)-β2フラクトース(フラノース環)である。スクロースホスホリラーゼによって結合させているためにグルコシル-D-プシコースも同様の結合様式になっているものと推測される。NMRの結果(図4)、および還元力の測定結果より、グルコシル-D-プシコースは、α1グルコース(ピラノース環)-β2プシコース(フラノース環)で結合していると推測される。
【0047】
4.酵母由来のインベルターゼに対する影響
インベルターゼ(β-フラクトフラノシダーゼ)は、スクロースを分解する酵素であり、スクロースと同じ結合様式は同じであり、構成糖の一方のD-フラクトースがD-プシコースに変換された構造を持つ。スクロースと比較して唯一D-フラクトースの3位のOHの位置がことなるのみである。従ってグルコシル-D-プシコースはインベルターゼに基質様物質として認識される可能性が高い。そこでグルコシル-D-プシコースが酵母
Saccharomyces cerevisiae 由来のインベルターゼによって分解されるのか、逆に阻害活性を調べた。酵素反応条件は表5に示す。
〈表5の補足説明〉
各糖+水が10+30μlは各糖10μlに水を30μl、20+20μlは、各糖20μlに水を20μl、40+0μlは各糖40μlのみを加えることを意味する。10+30μlは終濃度2.5mM、20+20μlは終濃度5mM、40+0μlは終濃度10mMである。
反応後、直ちに先に述べた条件と同様に加熱処理によってインベルターゼの反応を停止させ、これも先と同様にHPLCにより各糖の組成を定量し、D-フラクトースの生成量によって酵素活性を評価した。
【0048】
【表5】

【0049】
[結果]
結果を表6に示す。
濃度依存的にグルコシル-D-プシコースによってインベルターゼが阻害されていることが明らかとなった。
【0050】
【表6】




【産業上の利用可能性】
【0051】
(事業化への展望)
グルコシル-D-プシコースはこれまで合成してその性質を解明したことのない、新規二糖類である。インベルターゼで分解されないことから予想されることは、高等生物によっては分解消化されて吸収されにくいと予想される。このことは新規な甘味料をはじめ、新たなバイオ素材としての幅広い用途が期待できる。
具体的に検討した結果が示すように、インベルターゼの阻害剤としての応用が期待できる。すなわち、グルコシル-D-プシコースは、シュークロースのD-フラクトースの部分がD-プシコースに置換した物質であるので、砂糖分解酵素であるインベルターゼの阻害活性がD-プシコース以上にある。この阻害活性は腸管でのスクロースの分解が阻害されるため、スクロースが分解されず消化吸収させないことによるエネルギー量の低下が期待される。
【0052】
また、大量生産するためには、原料となるグルコース-1-リン酸とD-プシコースが大量に必要となってくる。D-プシコースは大量生産に成功しているが、グルコース-1-リン酸は高価であるため、この入手が鍵となる。D-グルコース1−燐酸を入手する方法の一例としては、セルロースの分解物であるセロビオースにセロビオースホスホリラーゼを作用させるとセロビオースからグルコース-1-リン酸も利用できる。
その他、各種のグルコシル化合物のフォスフォリラーゼを用いることで安価に得ることができ、本反応と共役する系を構築する最適条件を確立することで達成できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】D-フラクトースまたは、D-プシコースを基質に用いた際に生じた二糖をHPLCで分析した結果。(A)D-フラクトースの場合(B)D-プシコースの場合
【図2】精製後のグルコシル-D-プシコースのHPLCのチャート。
【図3】スクロースを基質としD-タガトース3−エピメラーゼとスクロースフォスフォリラーゼとの共役反応を行った反応後のHPLC分析結果。
【図4】グルコシルプシコース13C-NMRの結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量342.30であり、下記の構造を有するα-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシド。
【化1】

【請求項2】
無機リン酸存在下スクロースを出発原料として、スクロースホスホリラーゼおよびD-タガトース3エピメラーゼとの共役反応によって合成した物質である請求項1のα-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシド。
【請求項3】
α-グルコース-1-リン酸および希少糖より選ばれるケトヘキソースにスクロースホスホリラーゼを作用させて、構成単糖として希少糖を含む二糖を合成する方法。
【請求項4】
希少糖より選ばれるケトヘキソースが、D-プシコース、D-タガトース、D-ソルボース、L-フラクトース、L-プシコース、L-タガトースおよびL-ソルボースよりなる群より選ばれる1以上のケトヘキソースである請求項3の二糖を合成する方法。
【請求項5】
希少糖より選ばれるケトヘキソースが、D-プシコースであり、構成単糖として希少糖を含む二糖が、分子量342.30であり、下記の構造を有するα-D-グルコピラノシル-(1→2)-β-D-プシコフラノシドである請求項4の二糖を合成する方法。
【化2】

【請求項6】
前記スクロースホスホリラーゼが、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostocmesenteroides)に属する細菌由来である、請求項3、4または5の二糖を合成する方法。
【請求項7】
前記スクロースホスホリラーゼが、担体上に固定化されている、請求項6の二糖を合成する方法。




【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−91667(P2007−91667A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285087(P2005−285087)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】